menu

アメリカ大学・大学院留学の基礎知識 アメリカ大学・大学院留学の基礎知識

アメリカの高等教育制度は多くの点で日本と異なります。
まずは、アメリカの大学や大学院に関する基礎的な知識を学びましょう。
以下の見出しをクリックすると、その説明が表示されます。

A. 日本との制度の違い

A-1.入学資格・条件の違い

アメリカの大学には日本的な入学選抜試験というものはなく、全て書類審査で選考されます(詳しくは、「出願書類の準備」参照)。各大学が定めた必要事項・書類を、締め切りまでに提出しなければなりません。締め切り日は、大学によりさまざまで、早いところでは前年の11月末に締め切ってしまう大学や、rolling admission といって特に締め切りを設けず随時願書を受け付ける大学など、多岐にわたっています。従って、アメリカ留学には1年~1年半の準備期間が必要です。 また、過去の自分の業績(成績)などが評価されるため、普段からの地道な勉学努力が問われます。

A-2.学期制度/単位制度

アメリカの大学は、日本とは異なり、一般に9月から翌年の5月までの9カ月間を1学年(academic year)としています。6~8月は、夏休みか夏学期(summer session / school)です。その1学年間(9カ月間)を2期に分けるのがセメスター(semester)制で、1年間(12カ月間)を4期に分けるのがクオーター(quarter)制です。1セメスターは17~18週間(秋:8月下旬~12月中旬、春:1月上・中旬~5月上・中旬)、1クオーターは11~13週間(秋:9月下旬~12月中旬、冬:1月上旬~3月中旬、春:3月下旬・4月上旬~6月中旬)です。そのほかにも、大学独自の学期制度を設けている場合があります。

成績は、多くの日本の大学のように通年制によって学年の終わりにつくシステムとは異なり、単位(クレジット)制で、各学期が終了するごとにコースが修了し、成績がついて単位を取得します。1単位(クレジット)とは、セメスター(semester)制またはトライメスター(trimester)制の場合、各授業科目は、最低30時間の学習、クオーター(quarter)制の場合、最低20時間の学習(いずれも授業時間外の学習は含まれず)で構成されています(参照:米国教育省[U.S. Department of Education])。

アメリカでは、freshman(1年生)、sophomore(2年生)、 junior(3年生)、senior(4年生)という学年の分け方も日本のように在学年数によって決まるわけではなく、取得した単位数によって学年が決まります。

この学期制・単位(クレジット)制により、アメリカの大学では、個人の希望に応じた柔軟な計画を立てることが可能となります。たとえば、一般的に新1年生(freshmen)以外は各学期に入学が可能ですし、取得した単位を持って別の大学に編入(transfer)することもできます。また、一定期間休学(leave of absence)して残りの単位を復学後に取得することや、途中で専攻分野を変更すること、夏学期(summer session)も単位を取得することで4年在籍せずとも卒業することなども可能です。

A-3.文部科学省の不在・認定制度

日本での大学の認可は、文部科学省に一任されていますが、アメリカでは民間の複数の認定団体(accrediting associations) がその任にあたっています。認定団体は大別して、A)大学を教育機関として全般的に評価する団体と、B)大学の専門性を評価する団体の2種類があります。そして、それらの認定団体を評価認証する組織にCouncil on Higher Education Accreditation (CHEA)と米国教育省(U.S. Department of Education)があります。

認定制度について(Accreditation)

新たに設立された大学が認定を受けるには、大学側が自らCHEA(または米国 教育省[U.S. Department of Education])によって認証を受けた認定団体に認定の評価申請を出します。申請を受けた認定団体は、その大学の教育理念・目的・ 指針に応じた教育内容と質が提供されているか、そして大学の規模・教育内容等 が認定団体の定めた基準に達しているかを数年かけて審査し、適合した場合に認定を与えます。

この認定は一度受ければ永久的に有効といった性格のものではなく、定期的に調査・審査が行われます。再調査・審査で、基準に満たない場合、一定の猶予期間(probation)が与えられますが、その間に改善されなければ、認定は取り消されます。

A. 教育機関としての評価認定(Institutional Accreditation)

申請に基づき、大学を教育機関として評価するのが、「地域認定団体(regional accrediting association)」と呼ばれている機関です。全米を6つの地域に分け、 地域内に所在する大学の評価を担当する認定団体がそれぞれの地域にあります。各認定団体とその管轄州は以下の通りです。

地域認定団体
(regional accrediting association)
管轄する州
(州名はこちらを参照

Middle States Commission on Higher Education

DE, DC, MD, NJ, NY, PA, PR, VI

New England Commission of Higher Education

CT, ME, MA, NH, RI, VT

Higher Learning Commission

AZ, AR, CO, IL, IN, IA, KS, MI, MN, MO, NE, NM, ND, OH, OK, SD, WV, WI, WY

Northwest Commission on Colleges and Universities

AK, ID, MT, NV, OR, UT, WA

Southern Association of Colleges and Schools Commission on Colleges

AL, FL, GA, KY, LA, MS, NC, SC, TN, TX, VA

Western Association of Schools and Colleges

CA, HI, GU, AS, MP

地域認定を受けた大学間では編入学や単位の互換が比較的スムーズに行われます。一般的に、地域認定を受けている大学院へ進学するには、地域認定を受けている大学から学位を授与されていることが必要です。アメリカには3,049校(2012-13年)の地域認定大学(regionally accredited institutions)があり、そのほとんどが学位を授与(degree-granting)する非営利(non-profit)機関です。

地域認定を受けていない学校への留学を希望する場合は、そこでの教育や学位が、日本に帰国した際、どのように評価されるかを事前に調べておく必要があります。たとえば、国家試験を受ける場合や就職において、学位や卒業資格が日本の大学卒業と同等と認められるか、学会ではどう評価されるかなどの入念な調査が必要です。また、地域認定を受けていない学校の単位は、編入の際、互換されないことがあるため、その点でも注意を要します。

地域認定(regional accreditation)に加え、大学/学校を教育機関全体として認定するものに national faith-related accreditationとnational career-related accreditationがあります。

National Faith-Related Accreditation
宗教教義に基づく教育機関を認定する団体で、4つのnational faith-related accreditationの団体が、503校(2012-13年)に認定を与えています。ほとんどが私立の非営利機関で、学位を授与しています。

National Career-Related Accreditation
職業訓練を目的とした教育機関を認定する団体で、7つ(うちCHEAによって認証を受けたものは2つ)のnational career-related accreditation の団体が 4,344校(2012-13年)に認定を与えています。うち、私立の営利機関が約8割を占め、また約7割が学位授与しない教育機関です。地域認定を受けた大学では、カリキュラムの4分の1から3分の1は一般教養科目で占められていますが、private career accreditationを受けた大学は、ビジネスや技術訓練など特定の分野の教育を目的としているため、一般教養科目がカリキュラムに含まれていないことがあります。

B. 専門性についての認定(Programmatic Accreditation)

アメリカには、教育機関として大学を全般的に評価するほかに、分野別にその専門性を評価認定する制度 (programmatic accreditation)があります。専門分野別の認定団体には、CHEAによって認証を受けたもののほかに、米国教育省 (U.S. Department of Education)によって認証を受けた認定団体があり、認定する専門分野が(医学、法学、経営学、建築学、音楽など)多少異なります。専門性についての認定の必要性は志望する分野により異なり、専門職によっては、 専門分野別認定を受けている大学からの学位が資格や免許試験の受験条件となることがあります。たとえば、アメリカでは専門分野別認定を受けている法科大学院(ロースクール[law school])から学位(J.D. または L.L.M. / M.C.L.)を授与されていることが司法試験の受験資格となります。一般的に、専門分野別認定を受けている大学は、すでに地域認定も受けている場合がほとんどです。

Diploma Mills / Degree Mills

アメリカには、大学と称して学位を授与していても、CHEA(または米国教育省[U.S. Department of Education])が認証している機関から認定(accreditation)を受けていない大学が数多く存在します。前述した通り、アメリカでは設立から間もない大学は認定を受けていません。また、認定されていなくても、特定の分野では教育内容が充実して定評がある大学もあります。従って、認定を受けていないからといって、必ずしも教育の質の悪い大学とは言い切れません。しかし同時に、教育の質が認定の基準に満たない大学が存在することも事実です。特に、日本語での論文提出や過去の経験や実績を単位として認め、一定金額を納めれば 学位が授与されるような大学はCHEA(または米国教育省[U.S. Department of Education])が認証している機関から認定を受けていない場合が多く、それらの大学は、“diploma mills” または“ degree mills” と呼ばれています。アメリカではこのような大学の卒業証書や学位を学歴として用いることはマイナスの評価につながりかねませんし、実際、就職や昇進の際に用いることが違法となる州も存在します。最近では日本社会においてもそうした大学から授与された学位の質が問われるようになりました。従って、認定されていない大学への留学や通信教育の受講などは、その大学について十分調査した上で決断するよう注意してください。

関連サイト

米国教育省(U.S. Department of Education)
 “Database of Accredited Postsecondary Institutions and Programs
 認定検索サイト。Financial aidの対象となる大学が含まれる。就職の際、雇用者側が認定の有無を調査する際などに用いられる。
 “Diploma Mills and Accreditation - Diploma Mills

米連邦取引委員会(Federal Trade Commission)
 “College Degree Scams
 “FTC Issues‘ Facts for Business’; Guide on Avoiding Fake Degree
 “How To Avoid Scholarship and Financial Aid Scams

CHEA (Council for Higher Education Accreditation)
  “Degree & Accreditation Mills
  “State Licensed or Authorized Institutions
  “Degree Mills: An Old Problem And A New Threat

参考文献

Degree Mills: The Billion-dollar Industry That Has Sold over a Million Fake Diplomas
Allen Ezell and John Bear, Prometheus Books, 2012

A-4.教育理念

アメリカの教育理念では「自らが学ぶ」ことを重視しており、その理念に基づいてさまざまな教育システムが構成されています。高等教育(大学)の現場では、なるべく多様な人材が一堂に会し、その中でさまざまな視点から独自の意見が交わされることによって、学生ひとりひとりが自ら新しい英知と真実を見つけていくことを目指しています。従って、アメリカの大学は、日本の教育に見られるような 「教えを授ける」という儒教的な考え方とは異なり、学生が主体的に学ぶ場と考えられています。そして、教授は「知識を教える」役割よりも、学生から「(新しい何かを)引き出し発展させる」役割を期待されています。学生もクラス討論や学生生活に積極的に参加する姿勢が求められます。学生がクラスの中で発言して自分の考えを相手に提示することは、新しい英知を皆がそれぞれに発見するための「義務」であり「貢献」と考えられています。

A-5.大学数・学生数

アメリカには、3,982校の大学があります(この数字には、認定制度による認定を受けていない大学も含まれています)。その内訳は、公立大学が1,625校(40%)、私立大学が2,357校(60%)です。学生数は、公立大学が14,501,057人(74%)、私立大学が5,136,442人(26%)で、大学数では公立大学が私立大学より少ないものの、学生数は圧倒的に公立大学のほうが私立大学よりも多くなっています。

また、4年制と2年制大学の割合は、大学数・学生数ともに、アメリカでは、4年制大学の割合が約7割、2年制大学の割合が約3割です。日本における短期大学と4年制大学の大学数の割合はアメリカと大きく異なりませんが、日本の大学の学生数は、4年制大学が9割以上を占めています。

アメリカでは、下記の図表に示されるように、1)4年制大学では、大学数は私立のほうが多いですが、学生数は公立のほうが多いことと、2)2年制大学では、大学数は公立(コミュニティカレッジ)が約7割、私立(ジュニアカレッジ)が約3割ですが、学生数は9割以上が公立のコミュニティカレッジに通っていて、私立のジュニアカレッジに通う学生は、わずか4%にすぎないことが特徴的です。

アメリカの大学数 (2019-20年)
公立
私立
合計
 
4年制
772
29%
1,907
71%
2,679
4年制大学の割合 67%
2年制
853
65%
450
35%
1,303
2年制大学の割合 33%
合計
1,625
41%
2,357
49%
3,982
 
アメリカの学生数 (2019年)
公立
私立
合計
 
4年制
9,102,958
65%
4,935,497
35%
14,038,455
4年制大学の割合 71%
2年制
5,398,099
96%
200,945
4%
5,599,044
2年制大学の割合 29%
合計
14,501,057
74%
5,136,442
26%
19,637,499
 

A-6.多様性・柔軟性

1) 多様性

アメリカの大学の大きな特徴は、その数の多さにあります。日本の大学は4年制・短大、高等専門学校を含めて1,175校(令和3年度)ですが、アメリカには 3,982校の大学(2019-20年、この数字には、認定制度による認定を受けていない大学も含まれています)が存在します。

数の多さに加え、学生や社会のニーズに応じた教育内容の多様性もアメリカにおける大学の特徴のひとつです。その多彩なプログラムと質の高さは、世界中から高い評価を得ており、多くの国からの留学生が留学先としてアメリカの大学を選ぶ大きな要因ともなっています。教育内容の多様性は、「そのほか特殊プログラム」でも記されているように、アメリカならではともいえる独特なプログラムが提供されていることや、「留学方法の選択」にもあるように、教育方法の選択肢が多岐にわたることからも伺えます。

また学生もさまざまな層から構成されています。働きながら大学に通うパートタイム学生(※)や、高校卒業後一定期間をおいて入学する学生も多く、多様なバックグラウンドを持った、幅広い年齢層の学生が在籍しています。また、アメリカの大学では多様な学生の要望を満たすためにさまざまなサービスが提供され、留学生に対しては、各大学に専門の留学生アドバイザーが配置されるなど、ケア・サービスが充実しています。

アメリカの高等教育では、教育は商品のひとつで、大学はその商品の売り手、学生はその買い手といった考え方があります。学生は、学費に見合った教育内容とサービスを大学に期待し、アメリカの大学は、顧客である学生の要求を満たすために、常に教育内容やキャンパスライフの質の向上を心がけているのです。

(※パートタイム学生:アメリカ人が対象。留学生はビザの関係上、必ずフルタイム学生として在籍する必要があり、パートタイムでの勉強は不可。)

2) 柔軟性

学生のニーズに応じたカリキュラム構成や他大学との単位の互換などの柔軟性 の高さも、アメリカの大学の特徴です。また、時代の変化に対応して、常に教育内容が見直され、プログラムを改訂・新設することで、高等教育と社会との関連を密接に保っています。たとえば最近では、従来の独立した学問分野のカテゴリーにおさまらず、いくつかの分野と相互に関連し合った学際分野を扱うプログラム(interdisciplinary)が、数多く新設されています。また、インターネットなどの情報通信やコンピューター技術の発達に伴って、遠隔教育(distance learning)が高等教育の現場に多角的に導入されており、それに伴い教育方法にも変化が見受けられます。

そのほか、専攻科目選択や編入の多様性と柔軟性に関しては、「アメリカの大学学部課程の特徴」を参照してください。

A-7.ランキング

アメリカには、大学を比較する共通の指標がないために日本で大学評価に使われているようなランキング(偏差値)は存在しません。これは中央で教育を統括する機関の不在や認定制度の成り立ちとも関係していますが、各大学や学部がそれぞれ異なる特徴を持っているため、同じ基準に基づいたランキングが出せないのが現状だからです。インターネット等でもランキングを発表しているサイトをいくつか閲覧できますが、その信憑性を客観的に判断することは困難です。もしランキングを参照する場合は、そのランキングが何に基づいて出されたランキングなのか(たとえば、人気投票、教授の論文の数、卒業生の就職率、施設の充実度など)を調べ、その指標が自分にとって重要な要素であるかどうかを見極めた上で、利用してください。ただし、ランキングはあくまでひとつの観点を数字にしたものですので、それを大学選択の絶対的指標として用いると、大学選択を誤りかねません。あくまでもランキングは参考程度で用いることが肝要でしょう。

このほかランキングという概念とは多少異なりますが、アメリカの大学に関する参考図書の中には入学難易度により大学を大別して載せていることがあります。たとえば、Barron’s Profiles of American Colleges という参考図書では、 most competitive(top 10-20%の学生が入学)、highly competitive(top 20-35%)、very competitive(top 35-50%)、competitive(top 50-65%)、less competitive(top 65%)、noncompetitive(98%が入学)という入学時の難易度で大学がグループ分けされています。しかし、前述した通り、アメリカには日本のような偏差値等の難易度を示す絶対的な指標は存在しませんので、この分け方も参考図書により異なり、普遍的なグループ分けとはいえません。また、入学時の難易度と卒業率は必ずしも一致しませんので、入学しやすいからといって簡単に卒業できるとは限りません。

関連サイト

National Association for College Admission Counseling
COLLEGE RANKINGS

University Library at University of Illinois at Urbana-Champaign “College and University Rankings

EducationUSA「よくある質問」─大学ランキング

A-8.「選択の自由」と「自己責任」

日本における大学生は社会人と一線を画していますが、アメリカでの大学生は、「自己責任の下に、個人で選択の判断が下せる大人」であることが期待されます。

アメリカ社会は多様なバックグラウンドを抱えた人々を擁しており、大学もある程度こうした社会の縮図としての機能を果たしています。そのため 前述「多様性」でも触れているように、多様な学生のニーズに応じて、大学はさまざまな教育の機会を提供し、学生はその中から、自分に合った教育を選択することができます。しかし、「個人の選択の自由」が与えられていると同時に、それには必ず「自己責任」が伴います。たとえば、アメリカの大学では、途中で専攻分野を変えたり、他大学に編入するなど、自分の意志で進路を変えることが比較的自由にできますが、それに伴うリスクも自分で背負う心構えが必要です。

また一般にいわれる「アメリカの大学は、入学は易しく卒業は難しい」というのは、教育の門戸を幅広く開放する公立2年制大学(コミュニティカレッジ)であっても同様です。留学生も例外ではありませんので、自己責任の下に一定の成績を維持し、もし、必要な単位が取得できなければ、退学を余儀なくさせられることがあり得るといった自覚を持つことが肝要です。

日本における大学生は社会人と一線を画していますが、アメリカでの大学生は、「自己責任の下に、個人で選択の判断が下せる大人」であることが期待されます。

アメリカ社会は多様なバックグラウンドを抱えた人々を擁しており、大学もある程度こうした社会の縮図としての機能を果たしています。そのため 前述「多様性」でも触れているように、多様な学生のニーズに応じて、大学はさまざまな教育の機会を提供し、学生はその中から、自分に合った教育を選択することができます。しかし、「個人の選択の自由」が与えられていると同時に、それには必ず「自己責任」が伴います。たとえば、アメリカの大学では、途中で専攻分野を変えたり、他大学に編入するなど、自分の意志で進路を変えることが比較的自由にできますが、それに伴うリスクも自分で背負う心構えが必要です。

また一般にいわれる「アメリカの大学は、入学は易しく卒業は難しい」というのは、教育の門戸を幅広く開放する公立2年制大学(コミュニティカレッジ)であっても同様です。留学生も例外ではありませんので、自己責任の下に一定の成績を維持し、もし、必要な単位が取得できなければ、退学を余儀なくさせられることがあり得るといった自覚を持つことが肝要です。

B. 大学学部課程(2年制大学・4年制大学)

B-0.アメリカの教育制度

アメリカの教育制度は基本的に日本と同様で、12年間の初等、中等教育(中学・高等学校)を修了した後に大学学部課程があります。従って、日本の高校を卒業、ないしはそれと同等の資格があれば、アメリカの大学への留学は可能となります。 アメリカの教育制度に関しては、チャート「アメリカの教育制度(上記)」を参照してください。

大学学部課程(undergraduate program)には次の2年制大学4年制大学があります。

B-1.2年制大学

2年制大学(two-year college)は通常2年間の学部課程で、修了すれば準学士号/短期大学士号(Associate of Arts / Science Degree, A.A / A.S.)が与えられます。現在、アメリカには1,303校(2019-20年、この数字には認定を受けていない大学も含まれる)の2年制大学があり、公立はコミュニティカレッジ(community college)、また私立はジュニアカレッジ(junior college)などと呼ばれています。全米の大学生の29%は2年制大学に在籍しています(出典:Digest of Education Statistics 2021, National Center for Education Statistics)。また、留学生全体の約7%が2年制大学で学んでいます(出典:Open Doors 2021, IIE)。

1)公立2年制大学(Community Colleges)

A. 背景

公立の2年制大学はコミュニティカレッジと呼ばれ、主に地域住民の税金により公立大学として運営され、地域住民(コミュニティ)を対象とした多様な教育内容を、低価格で提供しています。コミュニティカレッジは、アメリカの高等教育の中で大きな役割を果たしています。たとえば、アメリカの学士号 (Bachelor’s Degree)取得者のうち、約3割が高等教育をコミュニティカレッジから始めています。さらに、コミュニティカレッジで授業を1つでも受講したことのある人の割合に至っては、全体の約半数となっています(出典:Transfer: An Indispensable Part of the Community College Mission, AACC)。コミュニティカレッジの特色は、広い分野にわたる技術・職業訓練を目的とした職業教育コースや、公立4年制大学に編入するための一般教養のコース(進学コース)を持ち、学生層が年齢・性別を問わず厚く(女性の割合:60%、平均年齢:27歳[出典:2021 Community College Fast Facts, American Association of Community Colleges])、生涯教育の場としても利用されていることがあげられます。また、州や地域によっては、一定の年齢(多くは18歳)に達していれば、高校中退者にも、門戸を開放し、高校レベルの補習教育を施した後、正式にコミュニティカレッジのプログラムで学ばせるところもあります。また、少数ですが、コミュニティカレッジの中には、学士号(Bachelor’s Degree)レベルのプログラムを提供している大学も存在します。

コミュニティカレッジは、基本的に “open admission” 、つまり「必要最低限の資格を満たせば、誰にでも門戸を開く」という「教育の機会均等」の理念の下に運営されていますので、入学条件は概してゆるやかです。しかし、自宅からの通学生が多いため、コミュニティカレッジでは、学生寮の設備を備えていない大学がほとんどです。寮のあるコミュニティカレッジは、American Association of Community Colleges (AACC) のデータによりますと、全体の 約28%(2021年)となっており、また大学構内に住む2年制大学生の割合はわずか1.5%(2019年)といわれています。寮のないコミュニティカレッジに留学する場合は、自分で住む場所の手配等を行わなくてはいけないことに留意しましょう。

ただ、コミュニティカレッジは、大学に比べて授業料が安く入学基準がゆるやかなことから留学生にも人気があり、こうした状況を反映して、最近では学生寮を持ち、留学生アドバイザーを配置するなど、留学生を積極的に受け入れるようなコミュニティカレッジもあります。

B. 公立2年制大学の主な教育課程

・職業教育コース(occupational / vocational / technical program)
 すぐに仕事に就くための実践的教育を行います。分野は、多岐にわたり、学位取得を目指さない学生のために、2年以内の修了証( certificate)コースを備えているところもあります。

・「進学コース」(transfer/general education program)
チャート「アメリカの教育制度」を見て分かるように、2年制大学では、4年制大学の教養科目(general education / liberal arts courses)レベルが提供されています。進学コースは、2年間の一般教養課程を修めた後、同じ州内の公立の4年制大学の3年次(junior)へ編入することを想定しており、ときに “two-plus-two” プログラムとも言われます。Articulation agreementと呼ばれる編入・進学するための成績条件(GPA)が各大学間協定で定められており、編入するにはその条件(成績等)をクリアする必要があります。

職業教育コースを選んでも、途中から進学コースに移ることは可能ですが、職業教育コースで取得した単位は、通常一般教養以外の単位は互換対象にはなりません。また、協定を結んでいない他州の公立大学や私立大学への編入も可能ですが、必ずしも2年間で取得したすべての単位が互換されるとは限りません(「編入の多様性と柔軟性」参照)

2)私立2年制大学(Junior Colleges)

私立の2年制大学は一般的にジュニアカレッジと呼ばれ、独立した組織によって運営されているものと、宗教関係団体によって運営されているものとがあり、おおむね小規模で学生寮を備えています。

ジュニアカレッジは、主に4年制大学への編入を想定した進学コースを提供しており、中には編入率が高い大学もあります。授業料は一般にコミュニティカレッジより高額です。

B-2.4年制大学

4年制大学(four-year college)は通常4年間の学部課程で、修了すると学士号(Bachelor’s Degree, B.A. / B.S.)が得られます。日本と異なり、教養課程・専門課程の区分けがはっきりしていませんが、一般的に1~2年次に教養科目(general education / liberal arts courses)を中心に取り、2年次後半から3年次前半までに専攻(major)を決め、3~4年次にその専門科目を取って卒業に必要な単位数を満たし、学位を取得します。

また、一部の専門分野(看護学等の保健分野、美術や音楽等の芸術分野、工学 など)を除いては、入学時に専攻科目を決めなくてもよいプログラムが数多くあります。薬学(pharmacy)、工学(engineering)、建築学(architecture)等の専門分野では学士課程の修了に5年かかる場合もあります。

全米には公立、私立合わせて、2,679校(2019-20年、この数字には認定を受けていない大学も含まれる)の4年制大学があります(出典:Digest of Education Statistics 2021, National Center for Education Statistics)。4年制大学は、大別して、1)一般教養全般に主眼をおき学部課程での教育に力を注いで大学院進学等に備えている大学(liberal arts colleges)、2)大学院課程を併せ持ち研究にも力を入れている総合大学(universities and colleges)、3)専門/単科大学(specialized colleges)があります。

いずれの場合も「大学」と呼ばれていますが、大学は学生数が1,000人以下の小さなものから、5万人位の大規模なものまで多様です。公立2年制大学と異なり、 ほとんどの4年制大学では、寮の設備を備えています。

1)リベラルアーツカレッジ(Liberal Arts Colleges)

アメリカにおいてリベラルアーツカレッジ(liberal arts college)とは、学生が 幅広い教養を身に付けることに主眼をおき、一般教養課程を主体とした大学を指します。アメリカの大学学部課程は、人格形成の場という理念があり、学生が人文・社会・自然科学を多岐にわたりバランスよく学ぶことで、豊かな教養と人間性を育成することを目指しています。その多くは私立の比較的小規模(学生数 1,000~3,000人)な大学です。静かで豊かな環境を備えた田舎や郊外にキャンパスを構える大学が多く見られます。

リベラルアーツカレッジで学ぶ利点は、大学院まで併せ持つ大規模な総合大学に比べ、教授対学生の比率が低く(1人の教授が受け持つ学生の人数が少ない)、学生に対するケアが行き届いていることと、教授が研究より教えることに力を注いでいる点などがあげられます。

また、特定の専攻分野を定めず、一般教養(liberal arts)で学士号を取得することもできますし、一般教養を学んだ後、あるいは一般教養と並行して専門分野を学び、その専攻で学士号を取得することも可能です。

アメリカでは、リベラルアーツカレッジで一般教養を学び、その後、特定の専門で大学院に進学して専門性を高める方も少なくありません。ただし、一般に公立大学に比べ、私立のリベラルアーツカレッジの授業料は高額なので、奨学金の可能性もあわせ、留学経費をどう賄うかを十分検討する必要があります。

2)総合大学(Universities and Colleges)

一般的に、カレッジ(college)は比較的小規模で大学学部や大学院課程の教育に重点をおいています。一方、ユニバーシティ(university)は研究者養成を目的として設立され、博士課程まで備え、多彩な専攻分野や学位プログラムを提供しているところが多く見られます。ただし、両者の間にどちらが優れている等の優劣はなく、むしろ個々の大学によって個性・特色が異なるという点に注目したほうがよいでしょう。

総合大学には、州が予算を出す公立大学と、学生の授業料で運営される私立大学があり、それぞれの大学により教育内容、授業料、施設等が大きく異なります。

公立総合大学は、概して学生数2万人以上の大規模校が多く、その州の税金を納めている住民には州外の住民よりも安い授業料が設定されています(注:留学生は一般に州外の住民と同じ。州や大学によっては例外あり)。その州の住民に入学の優先権があるため、留学生にとっては授業料に差がつくのと同様、州の住民よりも入学審査基準が厳しくなる傾向があります。

私立総合大学は、授業料、寄付等により運営されているため、一般に公立大学 よりも授業料が高くなる傾向がありますが、州の住民かどうかの区別はされません。また、概して公立大学より小規模な大学が多くなっています。

3)専門/単科大学(Specialized Colleges)

アメリカにはビジネス、音楽・アート・ダンス等の芸術系、建築、工学、看護学 等の専門分野の教育を提供している単科大学があります。このような専門/単科 大学のうち、芸術・建築系の大学への入学には、個人の能力・技能を示す作品提出やオーディションが義務付けられる場合があります。

B-3.規模・特性による分類

アメリカでは2年制大学、4年制大学といった区分のほかに、大学の規模や特性で分類することもあります。

たとえば College Handbook 2010, College Boardによると、学部生の人数で次の様な分類がされています:
very small:750人以下、small:750-1,999人、medium to large:2,000-7,499人、large:7,500-14,999人、very large:15,000人 以上。

また、colleges for women / men(いわゆる女子大学、男子大学)、colleges with religious affiliation(特定の宗派とつながりを持つ大学。歴史的・伝統的に宗教的な建学の精神性のみが継承されている大学から、現実的に規律や学生生活が宗教性にのっとったものまでさまざま)、historically black colleges(歴史的に、アフリカ系アメリカ人への教育を第一としている大学)など、さまざまな特性で分類することもあります。

B-4.アメリカの大学学部課程の特徴

1)専攻科目選択の多様性と柔軟性

2年制大学での職業教育コ-スでは専攻(major)がありますが、進学コ-スは一般教養が中心となります。

一方、4年制大学では通常2年次後半から3年次前半で専攻を決定します。また、必要取得単位数が増えますが、関連分野で副専攻(minor)を持ったり、ダブルメジャー(double major)で同時に2つの専攻分野を学び両方の分野の知識を深めることで専門性を高めることもできます。

さらに、アメリカの大学では、途中で専攻分野を変えることも可能です。専攻を変えた場合は、新しい専攻での卒業必要単位を余分に取得しなくてはならないので、卒業が少し延びることもあり得ますが、学期ごとの卒業が可能ですので必要 単位が取得できた学期の終わりに卒業が可能です。また、人気のある専攻を選んだり、適性を要求される専攻等に移りたい場合は、一般教養時の成績(GPA)などにより選抜されます。

2)編入の多様性と柔軟性

アメリカでは2年制大学から4年制大学へ、4年制大学からほかの4年制大学への編入学が比較的盛んに行われています。編入を希望する学生は今まで取得した科目と単位を示す成績証明書とシラバス(syllabus)といわれる授業の概要を記したものを志望校へ提出して審査を受けます。

A. コミュニティカレッジから4年制大学へ

コミュニティカレッジの進学コ-ス(transfer program)に在籍する学生は、あらかじめその地域のどの4年制大学と編入学協定(articulation agreement)を結んでいるかを調べて出願するのが一般的です。協定があっても編入学審査、つまり単位互換の認定審査は、個々の学生の成績(GPA)とすでに取得済みの科目内容が対象に行われ、必ずしもすべての単位が認められるとは限りません。しかし、協定を結んでいる大学間では、編入学審査を通れば単位移行も比較的スムーズに行われるようです。同じ州内の公立大学間ではお互いに編入協定を結んでいるところが多く、成績(GPA)が編入のための主な基準となりますので、あらかじめ編入条件をよく調べておきましょう。しかし、州が異なる公立の4年制大や私立の4年制大に編入を希望する場合は、上記の通りではありません。

B. 4年制大学から他の4年制大学へ

4年制大学間の編入では、受け入れ側の大学が独自に設けた基準を満たした上で、出願することになります。各大学ごとに、締め切り、必要最低限の成績 (GPA)、必要取得単位等の細かい要件が異なりますので、事前に編入希望大学について調べておくことが肝要です。一般的に、入学審査は成績の良し悪しで左右されます。

C. そのほかの編入方法

上に紹介した2つの方法以外にも「日本の大学からの編入」、「日本から第2学士入学」という方法があります。詳しくは 「入学方法 - 編入学について」を参照してください。

D. 編入の落とし穴

アメリカ人にとって、編入(transfer)は比較的容易に行われますが、「希望の大学に編入できるとは限らない」、「単位が必ずしもスムーズに互換されるとは限らない」、「卒業までに余分な時間がかかる」、「編入に伴う精神的・金銭的負担がかかる」等さまざまな課題もあります。留学生にとっては必ずしも負担の軽いものではないということも理解しておきましょう。

参考文献

Community College Transfer Guide
Don Silver, Adams-Hall Publishing, 2009

Transfer Student Companion Thomas Grites and Susan Rondeau, Wadsworth Publishing, 2008

Transitions: A Guide for the Transfer Student
Susan B. Weir, Wadsworth Publishing, 2007

3)条件付入学(Conditional Admission)

大学の中には、英語能力以外の条件が入学基準に達していて、英語力のみが不足している(大学の求めるTOEFLの最低点に満たない)留学生に、英語研修の受講を義務付けることを条件に入学を許可するところがあります。その場合は、大学に付属している英語研修所(一般に ESL/IEPなどと呼ばれる)があればそのプログラムか、他大学の英語研修プログラムで一定期間、留学生のための英語のコ-スを受講させます。その結果、各大学の定めるTOEFLの最低点や英語研修プログラムの一定レベルをクリアできれば、正式に大学への入学が許可され、大学の正規の授業を受けることができます(大学によっては、英語研修と大学の正規の授業を並行して履修できる場合もあります)。このような制度を持つ大学は 1,200校以上あります。

しかし、条件付き入学においては、
1.英語力が向上しない限り正規の学生としての入学は許可されないので、留学期間が長引き経済的にも明確な予定が立てにくい、
2.初めから条件付き入学という出願枠があって応募するのではなく、大学側が総合的に判断して出願者の中から条件付き入学者を決定する、等の事情を留意する必要があります。

なお、条件付き入学における英語研修の受講は、大学学部課程出願者に英語力のみが足りない場合の措置ですので、大学付属の英語研修所へ語学留学生として入学することとは異なります。英語研修所と大学は別個の教育機関ですので、後者の場合はあくまで語学研修所への入学となり、そこで英語力が向上したからといって、必ずしもその研修所の母体である大学の学部課程に入学が許可されるとは限りません。学部課程への入学には、英語力以外の出願条件も満たして改めて出願する必要があります。

参考文献

International Student Handbook, College Board
“Lists and indexes”の”Conditional admission based on English language proficiency”に英語の条件付き入学制度を持つ大学一覧が掲載されている。

C. 大学院課程(修士課程・博士課程)

C-1.大学院生のプロファイル

アメリカで大学院課程を提供している高等教育機関は、2,906大学(2018-19年)です(出典:Digest of Education Statistics: 2021, National Center for Education Statistics)。日本で大学院課程を持つ機関は、652大学(出典:文部科学省「令和3年度学校基本調査」)ですので、日本と比較すると、アメリカには非常に多くの大学院があります。

日本と同様に、大学院は12年間の初等・中等教育と4年間の大学教育の上に成り立っており、学士号を取得あるいはそれと同等の資格を有すれば、大学院課程への入学が可能となります(チャート「アメリカの教育制度」参照)。

アメリカの大学院レベルで提供される学位は、修士号(Master’s Degree)と博士号(Doctoral Degree or Ph.D.)で、いずれも授業の履修(course work)と研究(research)の両方が必要となります。

また形体別にいうと、1)学術系大学院(グラジュエートスクール:graduate school)と呼ばれるアカデミックな学問的研究・教育に主眼をおく課程と、2)専門職系大学院(プロフェッショナルスクール:professional school)と呼ばれる専門職養成教育を目的とする課程に大別されます。

大学院教育の学部課程との違いは、特定の分野において自らがより専門性を深めていくための密度の濃い指導や、学び、トレーニングの機会を提供していることです。

1.大学院生のプロファイル

アメリカでは2020年度、学部・大学院を合わせて約1,900万人の学生が在籍していますが、その中で大学院生は約310万人で、全体の約17%を占めています (出典:Digest of Education Statistics 2021, National Center for Education Statistics)。日本でも近年大学院生の数が増え続け、約25万人(出典:文部科学省「令和3年度学校基本調査」)に達しましたが、アメリカの大学院生数と比較するとまだ約9%と低い割合です。

そのほか、アメリカの大学院生の特徴は以下の通りです。

(1) 女性の割合が多い。女性:59.9%
(2) 年齢層の幅が広く、平均年齢が高い。 平均年齢:32.4歳(25歳以下の割合:19.6%、40歳以上の割合: 20.6%)
(3) 既婚率が高い。 既婚者:40.4%
(4) 働きながら大学院に通う学生が多い(assistantship などのon-campus での仕事も含む)。 有職率: 87.1%(修士課程 88.7%、博士課程 92.3%)
(5) 財政援助を受けている学生が多い。 全体:73.7% [ 修士課程 73.5%(留学生 59.9%)、博士課程 85.9%(留学生  92.7%)]

出典:

(1)-(2) Profile of Students in Graduate and First-Professional Education: 2007-08, National Center for Education Statistics
(3)-(5) Student Financing of Graduate and First-Professional Education: 2007-08, National Center for Education Statistics

では次に、取得学位別に大学院課程を見てみましょう。

C-2.修士課程

修士課程は、通常1~2年間の課程で、修了すると修士号(Master’s Degree)が与えられます。修士号の学位で主なものには、人文・社会科学分野の Master of Arts(M.A.)、理学・工学・応用科学分野の Master of Science(M.S.)、経営学の Master of Business Administration(M.B.A.)、教育学の Master of Education(M.Ed.)などがありますが、そのほかにも、多岐にわたる分野でさまざまな学位名が用いられています。2019-20年度には、全米で年間約84万の修士号が授与され、その約4割はビジネスと教育学の分野で占められています(出典: Digest of Education Statistics 2021, National Center for Education Statistics)。

アメリカの大学院の修士課程のしくみとしては、
①博士課程と併設され、修士 課程を終えて博士課程に進むプログラム、
②博士課程の一部に修士課程が設けられているプログラム、
③Terminal Masterと呼ばれ修士のみで課程が修了する プログラム(専門職系大学院[プロフェッショナルスクール]が該当)、に大別されます (チャート「アメリカの教育制度」参照)。

このうち日本と異なるのは、②の「博士課程の一部に修士課程が設けられているプログラム」で、大学学部課程修了後、修士課程を経ないで直接博士課程に入学する方法もあるということになります。

選別の厳しい大学院では、博士課程に進めそうな学生だけに入学を許可し、授業の履修(course work)を一定のレベルで修了したものの博士課程には進まない (進めない)学生には、修士号を与えて終わらせる、という場合もあります(「博士課程」参照)。

では、学術系大学院(グラジュエートスクール:graduate school)と専門職系大学院(プロフェッショナルスクール:professional school)の違いを詳しく見てみましょう。

1)学術系大学院(Graduate Schools)

学術系大学院(グラデュエートスクール)は、Academic Master と呼ばれ、いわゆる伝統的な人文・社会科学の分野における Master of Arts(M.A.)や、理学・工学・応用科学分野における Master of Science(M.S.)の学位が授与されます。

大学院により、修士論文(thesis)が要求されるプログラムと、要求されないプログラムがありますが、前者のプログラムでは、論文提出後に口頭試問を経て、学位授与に至ることが多いようです。一方、後者のプログラムでは一般に、論文・研究の代わりに履修すべき科目数が多く、最後に筆記理解試験(written comprehensive exam)が課される場合があります。

学術系大学院における修士論文は、独創的な研究や方法論、フィールド調査などが重要視されます。修士課程修了には、一般的に30~60単位の授業の履修(course work)が義務付けられ、成績の平均で B(GPA 3.0 「GPAとその算出方法」参照)以上が必須となります。また課程修了に、平均1~2年間を要します。

専門職系大学院の分野では、修士号取得までが一般的ですが、学術系大学院の分野では博士号(Ph.D.)が最高学位としての評価を受けています。

2)専門職系大学院(Professional Schools)

専門職系大学院(プロフェッショナルスクール)では、経営学、法学、医学、獣医学、歯学、建築学、福祉学、ジャーナリズム、都市計画、国際関係学、環境学、神学などの分野で、専門職に就くための実践的知識や技術の養成が行なわれています。

Professional master は、ほとんどの分野で、'terminal' master program とされ、博士課程まで続くことはなく修士課程で終了します(注:少数ですが博士課程に進学する場合や、医学系などは博士課程が主体となります)。このような terminal master の学位は、分野ごとに特定の学位名称がつけられることが多く、代表的な例としては、Master of Business Administration(M.B.A.)、Master of Social Work(M.S.W.)、Master of Education(M.Ed.)、Master of Fine Arts(M.F.A.)等があげられます。これらのプログラムは、学術系大学院とは異なり、実践的な知識の応用を重要視しているため、プログラムはより体系化され、学生は共通科目の多いカリキュラム履修を要求されます。

課程修了には、36~48単位の科目の履修(course work)が義務付けられ、一般に修士論文は要求されません。成績の平均で B(GPA 3.0 「GPAとその算出方法」 を参照)以上が必須で、分野やプログラムによっても異なりますが、平均1~3年で終了します。プロフェッショナルスクールでは、学士号での専門分野の一致を必ずしも求めませんが、その分野での実務経験や基礎的知識を有することが重要視されます。

たとえば経営大学院( ビジネススクール) は、入学にあたって一般に3年以上の 実務経験を要求しているところが多いようですが、実際にM.B.A. の学生の特徴を見ますと実務経験(学士号取得後、修士課程に進学するまでの期間)は、1年以内8.5%、1-2年31.2%、3-6年28.7%、7年以上31.6%となっており、学生の平均年齢も32.2歳となっています(出典:Profile of Students in Graduate and First-Professional Education: 2007-08, National Center for Education Statistics)。

経営学、法学のプロフェッショナルスクールへの留学を希望される方は、「ビジネススクール(経営大学院)留学」、「ロースクール(法律大学院留学)」を参照してください。

C-3.博士課程

博士課程は通常5-8年間の課程で、修了すると博士号(doctoral degree)が与えられます。博士号の学位で主なものには、Doctor of Philosophy(Ph.D.)や Doctor of Education(Ed.D.)があげられます。Ph.D. はリサーチドクターと呼ばれることもあり、原則として学生独自のオリジナルな研究とそれに伴う博士論文の提出が要求されます。しかし、自然科学・工学系の分野では、ほかの分野と比較して早い時期から数人の大学院生と共に指導教授が行っている研究プロジェクトに携わり、その研究に基づいて論文を執筆する場合もあります。

2020年度、アメリカでは55,283の博士号が授与されました。留学生(学生ビザ 保持者)は18,166名、そのうちの日本人は114名でアメリカを除いた国のうち第27位となっています。

博士号取得分野は、理工系分野(生命科学22.7%、工学18.9%、物理科学11.3%)に多くなっています。博士課程で専攻する分野が、学部課程の専攻と同じ学生は、約半数で、分野別には工学・物理科学系に多く、逆に教育学では、専攻を変えて博士号を取得する学生のほうが多くなっています。また博士号を取得する学生の約7割は修士号を取得していますが、生命・物理科学分野の学生は、他分野と比較すると修士号を取得していない割合が多くなっています。

博士号取得までに要した時間は、平均で大学院課程に入学後7.5年間、大学学部課程修了後では8.7年間となっています。分野別には、教育・人文・社会科学系の分野での学位取得に要する時間のほうが、工学・自然科学系の分野より長くかかる傾向が見られます。また、博士号候補生(Ph.D. Candidate または ABD[ All But Dissertation])となった学生のうち、実際、博士号取得に至ることができた学生はその約半数といわれています。

出典:

Doctorate Recipients from United States Universities : 2020, National Opinion Research Center

博士課程に入学する学生は、将来、教育職・研究職を志すのが一般的ですが、学位取得後、民間企業に就職したり公的機関で働いたりする場合もあります。

先にも述べた通り、アメリカではプログラムにより、大学の学部課程を修了後、修士課程を経ず、直接博士課程に出願することが可能です。博士課程に入学した学生は、定められた量(通常3-5年間)の授業の履修(course work)や研究を修了後、学生の総合的な学力や専門知識・研究能力を審査するための試験 (comprehensive examinationまたは qualifying examination)を受験します。この試験に合格して初めて博士号の候補生(doctoral candidate)となることができ、その後、博士論文(dissertation)執筆のための研究に取りかかります。これらのプログラムでは、一定数の単位を取得した時点で、修士号を取得する場合とそうでない場合があります。

一般的に博士号候補生となる学生は、自らが研究テーマを選択し、研究計画を立て、実際研究を行えるだけの能力や知識があることが期待されます。指導教授 (academic adviser)は、学生が行う研究に対して、意見を述べたり、研究が誤った方向に進んでいる場合に示唆を与えたりすることで指導しますが、あくまでも研究を行う学生の主体性が重んじられます。

C-4.大学院の単位互換

大学学部課程と異なり、アメリカの大学院は、各校ごとに独自のプログラムを設けているため、たとえ同じ専攻分野でも大学院間の単位の互換性は低く、大学院によっては他大学の単位を全く認めない場合もあります。(例外的に、Intercampus / Cross-Enrollment Programs を設置している大学院では単位互換が行われています「そのほか特殊プログラム」参照)。日本で修士号を取得している場合も例外ではなく、日本の大学院で取得した単位が、アメリカの大学院の単位として認められるケースは多くありません。

さらに、各大学では、residency requirement を課し、「修士号・博士号の学位取得予定大学に一定期間以上在籍、または最低限の単位の履修」を学位取得の条件としています。また、学位取得までの修学期間に制限(degree time limit / time limitation for degrees)があることにも注意が必要です。

C-5.ビジネススクール(経営大学院)留学

アメリカの高等教育機関において、ビジネス(経営学)を修士課程レベルで、提供している学校数は1,232校、博士課程レベルでは222校となっています(この数字には、認定制度による認定を受けていない大学も含まれています。出典: Digest of Education Statistics 2020, National Center for Education Statistics)。AACSB(American Assembly of Collegiate Schools of Business)という認定団体の専門認定を受けているのは、695校(2021年9月時点)です(出典:2021 Business School Data Guide, AACSB International)。

1. ビジネススクール(経営大学院)

A. MBA(Master of Business Administration)

MBAとは、経営学修士号(Master of Business Administration)を指し、経営大学院(ビジネススクール)で1年ないし2年間学びます。経営大学院(ビジネススクール)は、専門職系大学院(プロフェッショナルスクール)のひとつです。経営管理学の理論と実践を学ぶことで、めまぐるしく変化する経済環境に効率的に対処できる、優れた経営管理能力を備えた、管理職の養成を目的としています。MBAは経営学修士の総称のように言われていますが、経営学修士がすべてMBAタイプの学位というわけではなく、またMBAタイプの学位であっても大学により学位名が異なることがありますので、名称だけで判断しないことが必要です。

ビジネススクールのカリキュラムは、"Core" (ビジネスの基本となる分野)、"Concentration" (個人の興味を更に深く学ぶ分野)と"Elective"(選択分野)の3分野に分かれます。1年目に必須科目(Core)を取り、2年目に選択科目(Concentration や Elective)を取ります。”Core” や”Concentration” では、Accounting 、Finance、 Marketing、 Operations Research、 Human Resource Managementなどの基礎科目を、Elective では個人の専門、興味に沿ってより専門的な科目を選択します。これは、幅広い基礎学習の上に特定の専門分野を学ばせようというカリキュラムで、広い視野をもちつつ、専門分野にも強い経営者を養成することを目的としています。さらに、インターンシップなどの実習を取り入れている大学もあります。ビジネススクールでは、統括マネージャー(general manager)か、経営のスペシャリスト養成のどちらかを主眼にしているところが多く、それぞれの特徴は、履修科目の取り方に現われています。

カリキュラムと同様に、教授法も各校により異なります。代表的な教授法は、実践応用主体のアプローチ(Case Method)と理論中心のアプローチ(Lecture Method)ですが、実際は両方の教授法を取り入れている折衷型(Eclectic Method)がほとんどです。

実践応用主体の教授法では、ケースと呼ばれる事例をまとめた大量の教材を、討論中心に分析していくことにより各自の判断力を磨くケーススタデイ(case-study)方式や、小人数制をとる演習(seminar)方式、学生同志のロールプレイ(role-play)などが多いようです。また、現役のビジネスリーダーを講演に招いたり、インターンシップを行なうことにより実体験を積ませたり(field-study方式)、常に実社会との相互対話を基調としています。

一方、理論中心の教授法では、ビジネス運営を支える学問分野や基礎研究に裏打ちされた理論・法則を軸に、ビジネスの基本構成を様々な分野に渡って理解することが求められます。従って、講義(レクチャー)形式を取ることが多く、コンピューターシミュレーションを伴ったDecision Management Game(simulation方式)などが使われます。

B. Joint Degree Program

MBAプログラムの中には、MBAと他の専門分野の学位を3~4年で同時に取得出来る、"Joint Degree" プログラム(「そのほか特殊プログラム」参照)を設けている大学があります。Joint Degreeプログラムは2つの学位取得の為に集中して学ぶ訳ですから、非常に厳しいことはいうまでもなく、また入学審査も、ビジネススクールと他の分野(法科大学院[ロースクール]など)に同時に出願し、それぞれに手続を進める必要があるため。出願手続の負担は重くなります。

C. MBA以外のビジネスプログラム

(1) Other Master's Program in Business Related Fields

経営学修士の中には、MBAとは別に、MSAcc / MSAccty(Master of Science in Accounting)、MSF(Master of Science in Finance)、MSBA(Master of Science in Business Administration)、MSMarket(Master of Science in Marketing)、MIM(Master of International Management)、MIB(Master of International Business)など、Businessに関係する特定専門分野で学位を出しているプログラムがあります。その場合、広い分野を網羅するMBAプログラムと違って、特定分野をより深く専門的に学ぶことが要求されます。

(2) Executive MBA Program (EMBA)

既に実務経験を積んでいる中堅幹部が対象で、多くは夜間や週末などに行われるパートタイムプログラムとなっています。カリキュラム等は、基本的にMBAプログラムに添っていますが、必要単位数、プログラム構成等が、参加者の実務経験に応じて既成のMBAプログラムと異なってくる場合もあります。なお、EMBAプログラムは、パートタイムプログラムであるという理由から、留学生は、参加対象外の場合がありますので、ご留意ください(留学生はビザの関係上、必ずフルタイム学生として在籍する必要があり、パートタイムでの勉強は不可)。

(3) Executive Development Program

現役の企業幹部を対象とした短期集中プログラム(通常1~2週間)で、カリキュラムも参加者のニーズに合わせて組まれる事が多くなっています。EMBAプログラム同様、ビザの関係上、留学生は参加対象外の場合があります。参加を希望する場合は、ビザ申請に必要な書類を出してくれるのかどうかなど、各大学に問い合わせましょう。

(5) DBA(Doctor of Business Administration)

経営学博士(Doctor of Business Administration)プログラムは、将来、大学レベルで教鞭をとる事を目指す人か、ビジネスの特定分野で研究を目的とする人が多くみられます。

2. ビジネススクール留学の資格と条件

ビジネススクールの入学要件として、一般的に3年以上の実務経験が要求されます。実務経験の内容に関しても、一般職ではなく専門職以上の経験を要求するプログラムもあります。

ビジネススクールの入学審査では、出願者の経営幹部候補としての能力や資質が見極められます。学業成績(GPA)や各種テストスコア(GMAT/GRE、TOEFLなど)だけでなく、実務経験、過去の業績、個人的資質(自己表現能力[英語力や文章力]、リーダーシップ能力、独自性・創造性等)も含めて総合的に判断がされるということを心得ておく必要があるでしょう。よって、個人の全体像を表現する手段として、エッセイおよび推薦状は極めて重要となりますので、周到に準備しましょう。

なお、少数ですが入学要件に、実務経験を要求しないところもあります。実務経験なしにMBA留学を志す場合は、MBA取得後の就職の際、実務経験のないMBA取得者を企業がどのように受け止めているのかを留学前に調査しておくとよいでしょう。

3. 大学選択の方法

大学選択については、「大学選択」をご参照ください。大学選択に際しては、自分の目的やバックグラウンドをよく見極める事が大切です。著名であるというだけで選択することは大きな危険性をはらんでいます。なぜなら、いかに優れたプログラムであっても、個人の目的にあっていない場合は、個人の性格や資質にそぐわない場合があるからです。ランキングは、気になることのひとつかも知れません。しかし、日本の大学入試に見られるような偏差値による序列とランキングを混同してしまうのは危険です。どのようなランキングも主観的なもので、しばしばひとり歩きしてしまう点と、ランキングで多種多様なプログラムを語ることは出来ないという点です。プログラムの特性、内容等が自分にとって適切であるかを自分自身で責任を持って調べ、判断しようという姿勢が大切となります(参照:EducationUSA 「よくある質問-「大学ランキング」)。

4. ビジネススクールに関する情報源

イベント

海外のビジネススクールフェアが、年に数回、東京で開催されています。ビジネススクール担当者や日本人同窓生に直接、話を聞くことができる絶好の機会です。

The MBA Tour


QS “Online World MBA Tour Japan”


Access MBA One-to-One MBA Event in Tokyo


参考文献

CompetitiveEdge ? A Guide to Graduate Business Programs
Peterson’s, 2013

Graduate Programs in Business, Education, Information Studies, Law & Social Work, Peterson’s, 2014

How to Get Into Top MBA Programs
Richard Montauk, Prentice Hall Press, 2012

The Best 169 Law Schools
The Princeton Review, Random House, Inc.,2014

C-6.ロースクール(法律大学院)留学

アメリカの法学教育は、大学学部課程ではなく、大学院レベルのロースクールと呼ばれる法律を養成する専門職系大学院(プロフェッショナルスクール)で行われています。ロースクールは、専門職系大学院の中でも群を抜いて厳しいプログラムとして知られており、入学後の勉学が熾烈です。

ABA(American Bar Association) 認定のロースクールは全米に約200校あります。ABAは法律の専門分野認定団体でロースクールを認定する機能をもち、後述するLawyerの資格にも関連してきます。ロースクールはLawyerの養成を目的とした3年間アメリカ法を学ぶJDプログラムが主体で、さらに1年で比較法や国際法を学ぶMaster of Laws (LL.M: Master of Laws/M.C.L.: Master of Comparative Law)プログラムなどを持つところもあります。

日本からアメリカのロースクールに留学する場合、J.D. プログラムでもMaster of Laws (LL.M /M.C.L.)プログラムでも、どちらにでも出願できます。しかしJ.D.プログラムは、アメリカ国内のLawyerを育てることを主たる目的としているため、外国人留学生がJ.D.プログラムに入学するのは一般的ではありません。留学生のロースクール留学は、自国ですでに法学の学位や法律家としての資格を持つ人が、Master of Law (LL.M/M.C.L.)プログラムに参加する場合がほとんどです。

したがって、ここでは、外国人留学生の大多数が目的としているMaster of Lawプログラム(LL.MやM.C.L.)への留学を主体にとりあげます。

1. ロースクール(法律大学院)留学

前述したように、外国人留学生がロースクール留学する場合、国際法や比較法を学ぶ1年間のLL.Mプログラム留学であることが多いという事実をまずは知っておきましょう。

A. LL.M /M.C.L.(Master of Law)プログラム

ロースクールの約半分(約100校)では、3年間のJ.D. プログラムの後、法学修士号が取得できるMaster of Laws (LL.M/M.C.L) プログラムを備えています。前述したように、外国人留学生が主にロースクール留学先として選ぶのが、このLL.Mプログラムです。LL.M.プログラムにはJ.D.プログラムを修了した者だけでなく、自国で法律の学位を持つ外国人留学生も多く在籍しています。特定の法律を勉強する他に、アメリカで弁護士資格を取る方法の1つとして認識されています。

LL.Mプログラムは通常1年間のコースで、基本的な法律とともに、税法、国際法、著作権法、環境法、農業法、日米比較法など、特定分野の法律を学ぶことが出来ます。授業の形式はJ.D.プログラムとほぼ変わらず、そのほとんどはJ.D.プログラムの学生と同じ授業を受講します。 LL.MプログラムのFields of Lawには以下のようなものがあります。

Fields of Law(LL.M)
Admiralty Law, Agriculture Law, Banking Law, Comparative Law, Criminal Law, Elder Law, Entertainment Law, Health Law, Human Rights Law, Insurance Law, International Law, Intellectual Property Law, Military Law, Mountain Law, Real Estate Law, Sports Law, Tax Law, Trade Law and etc. 

M.C.L.プログラムは一部のロースクールが外国人法律家のために備えている約1年間のコースで、アメリカ法や比較法を学びます。

B. LLM以外のプログラム

1)  J.D.プログラム

J.D.プログラムへの入学は一般的ではありませんが、実際に実行する方もいますし、将来への可能性に挑戦する場合もあります。

J.D.プログラムの教育期間は通常3年間で、修了するとJ.D. (Juris Doctor) の学位が与えられます(J.D.は通称、first professional degreeと呼ばれる)。J.D.プログラムでは、法律のジェネラリストを養成するために、憲法、商法、民法、刑法、比較法、国際法等、法律全般を学ばせます。アメリカはCommon Law System(判例法システム)ですので、授業は判例を使った学習が行われています。実際の法令に基づいた教育法、ケースメソッドが取り入れられ、法律の専門家としてのLawyerを育てるために、Law School在籍中から、「Lawyerのように考え、意思決定する人」を訓練するために様々なアプローチが用いられています。
J.D.プログラムに加えて、多くのLaw Schoolは他分野の大学院プログラムと協力して、J.D.と修士号(MA, MBA, MPA 等)や博士号 (Ph. D.) が同時に取得出来るプログラム (joint degree program) を備えています。経営、行政、経済、都市計画、社会福祉、国際関係などの分野が一般的で、二つの学位を同時に取得し、別々に取得するより期間が短く済みます。

2)法学博士課程(S.J.D./J.S.D.)プログラム

S.J.D./J.S.D. プログラムは、法律を学問として研究する学者や法学教授になることを目指す者を対象としています。1年間のコース修了後、博士論文の提出が求められます。
(アメリカでLaw Schoolの教授になる場合、必ずしもS.J.D./J.S.D.が必須条件になるわけではありません。むしろ高名なLaw SchoolでJ.D.を優秀な成績で修め、Lawyerとして実績のある方が法学教授として活躍する場合が多くみられます。)
法学博士課程(S.J.D./J.S.D.プログラム)に入学するには法学修士号(LL.M/M.C.L.)を取得していなければなりません。各アメリカのロースクールにより判断が異なりますが、日本の法律家は1年の司法研修所での研修が認められて、S.J.D./J.S.D. プログラムに直接入学出来ることもあります。S.J.D./J.S.D.プログラムは数が非常に少ない為、入学の競争率も大変厳しいものがあります。

3)  法律家以外の方を対象とした法律関連学位

法律家(弁護士)ではない(または法律家を目指していない)が、職責上、法律の知識が必要となる人を対象とした修士・博士プログラムも存在します。学位の名称は、プログラムや大学によっても異なります。

  • Juris Master Degree (J.M.) / Master of Jurisprudence (M.J.)
  • Master of Studies in Law / Master of the Study of Law (M.S.L.) / Master of Legal Studies (M.L.S.)
  • Master of Science in Legal Studies (M.S.L.S.)
  • Master of Science in Legal Administration (M.S.L.A.) など

2.ロースクール入学に必要とされる資格・条件・適性能力

以下は、ロースクール入学に必要とされる一般的資格・条件、および適性能力(下記参照)です。入学条件に、就労経験を必須としている大学もあるといわれます。適性能力(下記参照)の詳細を見てみると、学業だけでなく就労経験がコアスキル習得に有効であり、また能力証明にも寄与していることは想像に難くありません。

  • 資格: 学士号を取得していること。LL.Mの場合、法学の学士号(法学以外の学士号取得者でも、法律分野で十分な職業経験・実績がある場合、ロースクールによっては、入学を認められる場合もある)。なお、J.D.の場合、専攻は問われない。参考:LSAC "Eligibility" (日本に関しては"JAPAN"を参照。ロースクールによってはLSAC推薦の規定(国別)を要求するところもあり。)
  • 条件: 学力、およびコアスキル(下記参照)、英語力、経済力、エッセイ、推薦状、(時に)就労経験、LSATのスコア(J.D.の場合)
  • 適性能力(コアスキル):
    Analytical/Problem-solving Skills, Critical Reading Skills, Oral Communication & Listening Abilities, Writing Skills, General Research Skills, Task Organization & Management Skills, The Value of Serving Others and Promoting Justice

ロースクール留学を考える人は、上記能力以外に、苛烈な競争に耐えうるだけの強靭な心身の持ち主であるのかについても、客観的に省みる必要があるでしょう。

3.アメリカのLawyerの資格制度

アメリカでは、Lawyerの資格・免許制度は各州によって定められています。すべてのLawyerは州の法曹協会に登録しなければなりません。登録の規則は州により異なりますが、一般的には次の3点が要求されます。

  1. ABA(American Bar Association)認定のロースクールから学位(必ずしもJ.D.に限らない。州によってはLL.MでBar Examinationを受けられる場合もある)を取得のこと。
  2. 州の法曹協会実施の司法試験 (Bar Examination) に合格のこと。
  3. Lawyerとしての適性、法律倫理の理解、健全な人格の証明が出来ること。

司法試験はほとんどの州でアメリカ国籍を持っていなくても受験できます。重要なことは、資格を取得しても、就職をする際、移民局の許可、つまり就労(H-1)ビザを取得しなければ、アメリカで働くことが出来ないということです。資格を得ることと、就労ビザを得ることは異なりますのでご注意下さい。

4.大学選択の方法

アメリカのロースクールを志す方は、「何故アメリカのロースクールに留学するのか」という留学の意義と将来展望を明確にすることが重要です。留学は誰に対してもオープンに開かれていますが、専門職系大学院への留学、特にロースクールへの留学は、まとまった時間とお金と労力を掛ける覚悟が必要です。したがって、「視野を広げたい、英語力をつけたい」等の一般的な留学動機よりさらに具体的な志望動機、明確なキャリア目的が要求されます。今の自分には十分な準備が出来ているのか、現時点で、資金と時間をかけるだけの明確な志望動機と説得力を備えているのかを、いまいちど振り返ってみてください。

大学選択を考えるとき、かける投資・労力に見合う結果をと考え、思わずランキングで選んでしまうことはよくあることかもしれません。しかし、アメリカの大学は日本の様な偏差値という指標を用いず、全て書類審査で入学合否が決まりますので、大学の価値を日本的ランキングだけで計ることは、危険をはらみます。知名度を全く度外視することは現実的ではありませんが、著名度だけで選ぶとミスマッチを生む原因にもなりかねません。ロースクールのランキングは専門雑誌等で定期的に発表されていますが、ランキングを用いる際は、ランキングの審査基準を調べる必要があります。(「大学選択」を参照のこと。) 

6.ロースクールに関する情報源

参考文献

Official Guide to ABA Approved Law Schools
The American Bar Association


ABA-Approved Law Schools

Comprehensive Guide to Bar Admission Requirements,  National Conference of Bar Examiners & American Bar Association Section of Legal Education and Admissions to the Bar


Graduate Programs in Business, Education, Information Studies, Law & Social Work Peterson’s, 2014


LLM Roadmap: An International Student Guide to U.S. Law School Programs
George Edwards, Walters Kluwer Law & Business, 2011


The Best 169 Law Schools
The Princeton Review, Random House, Inc., 2014


D. そのほか特殊プログラム

アメリカの大学は、さまざまな選択肢を提供しており、少数ですが以下のような独特のプログラムを提供しているところもあります。

D-1.学部課程

1)Combined Bachelor’s / Graduate Degree Programs

学士号と修士号(またはFirst Professional Degree)を、通常の期間よりも短い期間で取得できるプログラムです。たとえば、学士号と修士号の2つの学位取得には、6年間(学士課程4年間+修士課程2年間)かかりますが、3-2ProgramといわれるCombined Bachelor’s / Graduate Degree Programですと、5年間(学士課程3年間+修士課程2年間)で両方の学位を同時に取得することができます。経営学、建築学、看護学、社会福祉学などの分野にプログラムが設けられています。

参考文献

Book of Majors College Board

2)Double Major

2つの専攻分野を同時に学び、両方の分野での学士号を取得します。2分野の卒業要件を満たすために、履修科目数も増えるため、通常、ひとつの分野で学士号を取得するよりも卒業までに時間がかかります。

3)External Degree Program

自由学習・自主研究、適性試験、経験などを基に単位を取得するプログラムです。

4)Study / Semester Abroad Program

Study / semester abroad program は、学生が海外の提携校で1学期間あるいは1学年間学ぶ制度です。数多くのアメリカの大学が世界中の国々の大学と提携を結んでおり、多くのアメリカ人学生がこの制度を通して、海外の大学で学ぶ経験を積んでいます。アメリカの大学で学ぶ留学生にも、参加の機会が与えられており、その間に取得した単位がアメリカの在籍大学の単位に互換されます。このプログラムに参加することで、たとえばアメリカ留学中にフランスやスペインなどの海外の提携校へ留学し、単位を取得することが可能です。

参考文献

A Student Guide to Study Abroad IIE (Institute of International Education)
IIEPassport 2014-15Directory IIE (Institute of International Education)
Short Term Study Abroad 2008 Peterson’s, 2007
Study Abroad 2008 Peterson’s, 2007

関連サイト

IIE (Institute of International Education) “Search Study Abroad Programs ─ IIEPassport.org
UNESCO “UNESCO ─ Studying Abroad

5)そのほか

1学期間、学外での体験を通して学習する制度を設けている大学があります。制度には下記のようなものがあります。

・Semester at Sea:調査船などに乗って洋上で過ごすプログラム。
・ United Nations Semester :ニューヨーク市内の大学の授業を受講しながら国際連合(United Nations)でインターンシップを行うプログラム。
・ Urban Semester :主要都市(フィラデルフィア、シカゴ、ニューヨーク、デンバー、サンフランシスコなど)で授業だけでなく、インターンシップなどの体験を通して大都市の複雑さを学ぶプログラム。
・ Washington Semester:ワシントンD.C. の政府関連機関でインターンシップなどの体験を通して単位を取得するプログラム。

参考文献

Book of Majors College Board

関連サイト

Semester at Sea

D-2.大学院

1)Joint/Dual Degree Program

2つの異なる分野でも相互に関わり合いがあり、両方の分野の知識を深めることで専門性を高めることができます。経営学と法学、経営学と工学、法学と心理学などさまざまな分野にわたりプログラムが設けられています。

たとえば、Master of Business Administration(M.B.A.)とJ.D.(Juris Doctor)の両方の学位を取得するには、通常5年(M.B.A. プログラム2 年間+ J.D. プログラム3年間)かかりますが、joint degree programでは3 - 4年で2つの学位を取得することが可能です。

D-3.学部課程・大学院共通

1)Multidisciplinary/Interdepartmental Degree Program

国際関係論や開発学、環境学など、いくつかの分野にまたがり、それらが相互に関係している学問を学ぶためのプログラムです。たとえば、国際関係論のプログラムでは、政治学、経済学、経営学、行政学、外国語、地域研究など、国際関係学に関連した学科が集まってカリキュラムが組まれ、学位を取得することができます。通常、それぞれ異なる学科から選出された教授によりプログラムの運営委員会が構成され、カリキュラム設定や入学志願者の選考が行われます。

2)Internships/Cooperative Education(産学協同)

実習やフィールドワーク、インターンシップ等、実践的経験を積むことを義務付け、単位として認めるプログラムを設けている大学/大学院があります。

特に、産学協同プログラム(Co-op[cooperative education])に参加している大学においては、カリキュラムの中にインターンシップが組み込まれており、学生はインターンシップをこなさないと卒業が認められません。細かい規則は大学により異なりますので、個別に調べる必要があります。

参考文献

How to Get Money for College: Financing Your Future Beyond Federal Aid 2015, Peterson’s

3)Intercampus/Cross-Enrollment Program

近隣にある他大学と提携を結んでいる場合、その提携校で取得した単位が在籍校の単位として認められることがあります。Intercampus/cross-enrollment program を設けている大学について調べる際は、同時に提携校で履修できるコース内容も調べておく必要があります。

4)Student Designed Major

学生の希望する分野が特殊であり、大学では学部やプログラムとしては設けられていない場合、大学によっては学生の要望に応じた独自のカリキュラム構成でコースを履修し、学位を取得できることがあります。

Student-designed major の制度がある大学は、参考図書(Book of Majors, College Board など)でも調べられますが、実際希望する分野や研究内容で student-designed major が可能かどうかは大学に直接問い合わせる必要があります。

5)Distance Learning

インターネットなどの情報技術の発達に伴い、遠隔教育(distance learning)でアメリカの大学・大学院の学位も取得できるようになりました。しかし、遠隔教育のみで修士号や博士号を授与する大学はまだ少なく、分野も限られています。
近年、多くの認定を受けた大学の授業も遠隔教育で受講できるようになり、スクーリング(実際に通学して、講義受ける事)が可能であっても、一部の単位を遠隔教育で取得する学生も増えてきました。
しかしながら、遠隔教育で学位が取得できる大学の中には、認定(accreditation)を受けていない大学も多く存在しますので注意が必要です(参照:「認定制度について(Accreditation)」)。

参考文献

米国留学をめざす人のために – Book 3: 短期留学、英語留学、遠隔教育、認定 Short-Term Study, English Language Programs, Distance Education and Accreditation from the If You Want to Study in the United States Series, 米国国務省(U.S. Department of State)
How to Master Online Learning Peterson’s, 2010

6)共同学位制度

数は少ないですが、デュアルディグリー(dual degree)/ダブルディグリー(double degree)プログラムなどと呼ばれる共同学位制度を導入している日本の大学があります。日本では未だ「共同学位」の定義が、曖昧なため、大学により制度が異なりますが、多くの場合、共同学位プログラムとは、日本と海外の大学・大学院の双方に在籍し、2つの大学から学位を取得できる制度となっています。

参考文献

Global Perspectives on International Joint and Double Degree Programs
Institute of International Education, 2014

Joint and Double Degree Programs in the Global Context  
Institute of International Education, 2011